平成30年度事業報告 | |
特定非営利活動法人 アジア高等教育支援機構 |
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I 活動成果 日本大使館、JICAおよび本NPOが支援をしているラオスのロボットコンテストは本年度はこれまでマニアル型ロボットと自立型ロボットの両方を使い、かつ自立型ロボットはカラーセンサを新たな技術として採用して、カラーボックスの獲得競争を行ってきたが、3年間続けてきたので、今年度はさらに新しい技術を導入するための準備期間とし、例年年度末の3月に行っていたロボットコンテストは行わず、3月はワークショップを開催して、ロボットコンテストの新テーマを決定した。有賀正理事と飯島敏雄理事はワークショップにおいて電子部心の寄贈を行うと同時に機械工学科教員に材料科学とマイクロバブルの論文執筆のアドバイスをおこなった。 また若林敏雄理事2017年に、ラオス国立大学、ジェトロ、日系企業および水力発電所などを訪問して、ラオスの教育、産業、社会事情などを報告書としてまとめると同時に当NPOの十余年の活動を論文にまとめ、7月2日から5日までラオスで開催される理工学に関する国際会議2019に投稿して採択された。 II 事業報告 1 ロボットコンテストのためのワークショップ開催 2020年3月開催予定のロボットコンテストの準備作業として2回のワークショップを開催し、第1回のワークショップが3月に実施された。このワークショップにはラオス各地から12チームが参加した。ワークショップの詳細は以下の通りである。 |
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(1)実施の内容 ワークショップは平成31年3月21日(木)と22日(金)の2日間で、実施内容は以下通りである。 第1日目(9:00-16:00) 午前: 開会式 副工学部長Dr. Khanpoui先生 挨拶 NPOアジア高等教育支援機構 飯島敏雄理事、有賀正理事 挨拶 講義内容
電子回路とマイクロコンピュータの基礎講義 講師:畠山忠夫雄氏 午後: マイクロコンピュータによるセンシングに関する講義 講師:畠山忠夫氏
第2日目(9:00-16:00) 午前: マイクロコンピュータによるロボット製作実習 講師:畠山忠夫氏 午後: 新しい競技ルールと競技フィールドについての検討 講義:Dr. Khamphong先生、Mr.Xaysamone先生、 閉会式 電子工学科学科長Mr.Phoumy先生 挨拶 NPOアジア高等教育支援機構飯島敏雄理事 挨拶 |
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![]() Workshopの開会式と電子部品の寄贈 |
![]() Workshop参加チームへの電子部品の寄贈 |
![]() Workshop風景 |
![]() Workshop風景 |
(2) 参加チームおよび参加校 ![]() |
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2.研究指指導 |
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(1)有賀正理事による研究指導 | |
2018年5月22日~5月31日はマレイシアのマラヤ大学 (Universiti Malaya) と マレイシア大学パハン校 (Universiti Malaysia Pahang) を訪問して大学院修士課程及び博士課程の学生の研究指導を行った。 同年8月5日~8月20日は同様にマラヤ大学とマレイシア大学パハン校、マレイシア国民大学 (Universiti Kebangsaan Malaysia) を訪問し研究分野の同じ教員と材料科学に関する研究の話し合いを行った。 同年12月1日~9日ではマラヤ大学において博士課程の学生の研究指導を行った。 また大学院学生に対して、私のこれまでの研究分野の内、熱交換器への応用について講演を行った。 2019年3月19日~3月26日ラオス国立大学、およびタイのモンクット王工科大学ラカバン校を訪問した。 ラオス大学においてはマレイシアのマレイシア科学大学で学位を取得し教員になった講師と研究について指導を行った。 この教員は材料科学が専攻のため私の専門と合致するため今後継続的な支援を行いたいと考えている。 モンクット王工科大学では研究分野が一緒の教員が居るためお互いの研究成果を紹介したり、タイでは入手困難な研究試料などの提供を行った。 |
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平成31年3月19日から3月28日 マイクロバブルに関する研究指導を行った。マイクロバブルは最近注目されている研究テーマで、基礎的な研究から、工学のみならず農業、漁業、医学まで応用範囲が広く、NUOLでは汚水の浄化、KMITLでは農作物の洗浄についての応用研究を行うことになった。マイクロバブルに関する応用研究は安価に実験装置ができることが特徴で、研究費の少ないラオスやタイの大学には向いている。第1と2回目の訪問時は農作物の促成栽培に対する応用研究のための実験装置作成について議論し、今回の第3回目の時はから農作物の促成栽培に対する応用研究のための実験装置作成の途中結果を見せてもらった。まだ両大学とも完成までし至っていないが、大体マイクロバブル発生装置は出来上がって実験を行っていた。KMITLではまだ成果が出ていないがなおた。NUOLのカウンターパートは機械工学科の Sengratry准教授の他に若手のXayalak講師が加わり、汚水の浄化の研究で成果を出し、その結果は7月2日から5日までラオスのルアンプラバンで開催される理工学国際会議2019に論文を投稿することになり、その執筆の指導を行った。その原稿は下記の通り出来上がり投稿して、発表できることになった。審査員のコメントを検討し、5月15日までに最終論文を提出することになっている。 |
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3.NPO活動の国際会議発表論文執筆 平成18年2がつ16日に設立された当NPOはこれまでラオス、タイ、マレーシア、ベトナムなどの諸国の大学の教育・研究に関して協力を行ってきた。発足して十余年を経過しているので、これまでの主な協力成果をまとめ、7月2日から5日までラオスのルアンプラバン市で開催される理工学に関する国際会議2019(ICEAST2019)に応募することになり、若林敏雄理事がまとめ役になり下記のような投稿論文を執筆した。投稿論文は発表論文として受理され、5月20までにレビューアー意見を参考にして5月15日までに最終論文を提出する。 |
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4.ラオス訪問報告 アジア高等教育支援機構理事 若林敏雄 訪問期間:2017年12月4日~8日 訪問場所:ラオス国立大学工学部、JETROビエンチャン事務所、ナム二アップ1水力発電所、Theun-Hinboun Power Company(THPC) ラオス概要 個別に報告する前に、JEROビエンチャン事務所訪問の際いただいた資料に基づいてラオスの近況を述べる。 1.経済概況 ラオスは、2015年建国40周年、日本との外交関係樹立60周年を迎え、2016年には第10期党大会が行われ、議会選挙も行われ、人事、政策などが決められた。特に新社会経済五カ年計画では、2020年までに一人当たりGDPを3190ドル、7.5%成長とするとともに、低開発途上国脱却を目標として掲げたが、2016年11月には2017年から2020年までの目標値を2978ドル、7.2%成長と下方修正した。2017年には中国ラオス鉄道の建設が開始され、ラオスの発展が期待されている。因みに、2016年のGDP構成比、輸出入構造をそれぞれ図1,2,3に示す。 投資奨励法の改正、経済特区(SEZ)12ヶ所の設置により、民間投資が増加し、中国、タイ、日本などから資本投資や企業進出が増えている。特に、SEZにおける減税などの優遇措置や新しい労働力を求めて、チャイナプラス1、タイプラス1として日系企業がラオスに進出している。タイプラス1としては、ニコン、トヨタ紡織、アデランスがサバナケット経済特区(SEZ)に進出しているし、ベトナムーラオスータイの三国間輸送も注目されている。2017年時点で140社程の企業がラオスで活動している。 ![]() 2. 労働力 中国やタイにおける労働環境が厳しくなり、企業としても新たな労働力の確保が見逃せない。ラオスの労働市場の現況は 1.25歳未満の人口は全人口の約60%で、人口増加率は2010年から2015年予測統計では1.33%。 2.2015年における統計では、労働人口410万人で、農業70%、公務員7%、企業社員6%、学生16%である。 3.日系企業の生産性は中国の60~70%程度で、離職率は月5~10%である。 4.地方から都市部への移住が増加、従業員確保には寮などの設置が必要。 5.タイへの出稼ぎが増加し、年間20~30万人程度である。 周辺国における企業の賃金を比較すると以下の通りであり、最も低い賃金である。 表1 周辺国における賃金比較 ![]() 3.電力事情 ラオスでは、図1のように、電力がGDPの8.8%を占めており、産業経済にとって如何に重要であるかがわかる。北から南へと流れるメコン川1500kmがある。最近、中国内での開発が行われラオス国内での水量が減っているといわれているが、包蔵水力は2,650万KW、支流だけでも1,250万KWとされている。2015年では国内に38発電所、6,265万MW、2016年には42発電所、6,391MW の発電が行われている。現在46発電所6,757MW に増加している。この中には火力1及びバイオ2 発電所が含まれている。 日本工営の創業者久保田豊氏は当時のラオスのスファヌボン殿下の命を受け、ビエンチャンの北約100kmのナムグム川中流域に1971年12月ナムグムダムを竣工させた。また、余剰電力をタイに売電して資金の確保と回収の道筋をつけ、以後ラオスの輸出の主流を成している。因みに2016年の統計(図2)によると鉱物が総輸出の37.7%、電力が31.1%を占めている。電力はラオスの経済の進展に大きく貢献している。 ラオスにはラオス電力公社と独立発電事業者(IPP)2 社(Theun-Hinboun Power Company Limited: THPC,Houay Ho Power
Company Limited: HHPC)がある。公社は国内の電力関係を統括し、2社のIPPは国外への電力輸出を主として営む一方で、一部をラオス電力公社(EDL)に国内向けに卸売りしている。現在、水力発電所の建設ラッシュが続き、国内消費量の4倍ほどの発電をし、電力輸出も鉱業についで2番目を占めている。国内発電量が増えているにも拘らず公社は国内の電力需要を賄えず電力の輸入超過になっている。 訪問報告 1、ラオス国立大学工学部 ラオス国立大学(NUOL)は1996年に8つの学部からなるラオス唯一の総合大学としてスタートして2016年に20周年を迎えた。現在では13学部、2研究所、中央図書館、3センター、付属病院を持つ大学となっている。学生数はNUOLで32,000名、工学部が約4800名である。内女性はそれぞれ1200名、750名である。また、大学院学生はそれぞれ770名、110名である。工学部には、6つの大学院プログラムがあるが、 ①Master
of Engineering Program on Electronic Engineering ②Master
of Engineering Program on Telecommunication Engineering は、2016年から開始され、体制は整えられてきた。 2.JETROビエンチャン事務所 JETROビエンチャン事務所・代表山田氏を12月7日に訪問し、日系企業の進出、雇用、労働や景況について意見交換した。 (1)ラオスでは2020年までに一人当たりのGDPを3190ドル、7.5%成長をなしとげ低開発途上国の脱却を目指している。そのために、投資奨励法の改正(2016)、税制改正(2015)などを行うと共に、国内に12箇所の経済特区(SEZ)を設け海外からの投資を導入し、労働環境を改善し、国民生活の向上を目指している。 (2)12ヵ所ある経済特区(SEZ)の内サバナケットにあるサワン・セノSEZ(サバナケット空港から5km)にはトヨタ紡織、ニコンなど日系企業11社が進出している。 (3)これらは、タイや中国などの国の労働環境の変化とラオスの投資環境の改善と労働力にきたして行われた。 (4)NUOLの学生はプライドが高く、高い賃金を求めているが、技術力や情熱に乏しく、日系企業等の工場等では、タイ人など比較して給与を高くできないので、積極的な採用には躊躇している。サービス業などでは問題ないのかもしれないが。 (5)理工系の学生は、基礎力、専門力を高め、意欲のある学生となってほしいし、大学はそういう学生を育成してほしい。 3.開催電力ナム二アップ水力発電所(建設)の見学 関西電力は培った技術やノウハウを生かし、海外事業展開を図り収益拡大するともに獲得したこれらの海外展開技術やノウハウをグループ事業にフィードバックし、競争力を高める。事業展開に当たっては相手国の電力のインフラ整備や環境負荷低減に貢献するとしている。現在、台湾、オーストラリア、タイ、ラオスなどで発電所建設のプロジェクトが実施されている。 12月5日、ラオス国立大学工学部の副工学部長・Khampoui准教授、電子工学科主任・Phoumy Indahack准教授、豊田通商ビエンチャンのマネージャー・Phouttha氏らと共にナム二アップ水力発電所の建設を見学した(写真1)。この訪問に際しては、Phouttha氏とNAM NGIEP1電力会社(関西電力、タイ電力公社、ラオス政府のそれぞれが100%出資する会社が、それぞれ45%、30%、25%出資)・小坂マネージャーとの連携によって実現した。 ナム二アップ水力発電所はビエンチャンの北東約150kmのポリカムサイ県ポリカム郡内流れるメコン河支流のナム二アップ川に高さ148m、堤頂長530m、堤体積約200万m³の重力式コンクリートダムと出力約27.3万kWと約1.8万kWの発電所である。2013年10月から工事が始められ2019年1月の完成を目指している。予定通り完成させたいとのことである。この水力発電所は黒四発電所とほぼ同規模である。27.3万kWはタイ輸出用、1.8万kWは国内向けである。関西電力はラオス政府と27年間の事業契約を結び、その後は施設を無償で譲渡とするBOT契約を結んだ。ラオス政府はこれが完成すれば需要は満たされると述べている。この発電所プロジェクトには日本企業は以下の通り参画している。 表2 ナム二アップ1水力発電プロジェクト概要 ダム建設に当り、ナム二アップ川の流域に住む80世帯約500人が移転村に移り、2016年11月に開村式が住民、ラオス政府関係者、建設関係者の出席を得て行われた。また、流域に住む400世帯3000人の方々は新たな転地を求めて移転された。これらについてはきちんと保証されているとのことである。写真2,3は新しい村である。 ダム建設に関わる各種の問題についてはネット等で散見されるが、社内で専門家を含めて検討し対策を立てているとのことである。 (1)環境破壊 専門家を交えて検討し、対策を実施 (2)水質低下 濁水は沈殿地を設け、基準値を下回った状態で下流に放流している。汚水については塩素を投入するなどして管理をしている。
(3)村民の問題 住民の意見を聞き、その対策を実施していると共に、各種のイベントに参加しながら村民との交流を図っている中で、トラブルに対しては対応している。
(4)生活基盤 日本における同様な事例を参考にしながら発電所建設、運用・管理をしていくとのこと である。これは日本企業ならではのプロジェクトであり、スタンスであると思われる。 12月6日には独立系発電事業社(IPP)のTheun-Hinboun Power Company(THPC)を訪れ、事業内容の説明を受けると共に、住民及び環境対策などの概要の冊子をいただいた。説明や冊子から、取り組みの様子が把握できたが、関西電力プロジェクトには及ばないと思われる。
終わりに、ラオス国立大学は、2016年のNUOL創立20周年を祝ったが、多くの問題を含んでいる。早急に取り組まなければならない課題としては (1)授業改善、授業評価 (2)教員の業績、昇格基準 があるが、ジェトロビエンチャンを訪れた際、衝撃的現実を突きつけられた。ビエンチャンの日系企業ではNUOL工学部学生の採用に積極的になれない。それは (1)NUOLの卒業生はプライドが高い (2)能力に乏しく、仕事に情熱がない。 (3)高い賃金を払わなければならない。 などの理由である。日系企業の即戦力として卒業生が採用されるためには、学生の意識改革も必要であるが、教職員の意識改革も必要であると思われる。 ラオスでは新しい工科大学の創設の動きもある。ラオス唯一の国立大学として世界に目を向けて歩んでほしい。 謝辞 今回、JETROビエンチャン事務所代表・山田健一郎氏には、ご多忙の折お時間を割いていただき、ご意見をお伺いできました。また、貴重な資料もご提供いただきましたこと厚く御礼申し上げます。 また、関西電力ナム二アップ1マネージャー・小坂馨太氏にはご多忙にも拘らず、見学に際し、建設の概要説明、ダムサイトや移転村等ご案内等いただき、誠にありがとうございました。深く感謝申し上げます。 ラオス国立大学工学部・副工学部長カンプイ准教授、電子工学科主任プミー准教授及び豊田通商・ビエンチャン事務所マネージャー・プッター氏には、今回訪問のすべてを企画及びご案内いただいたことに御礼申し上げます。工学部の関係の方々にもお世話になりました。ありがとうございました。
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